梅雨

走り梅雨
詩/八尋由紀
真夜中の嵐の音に
身体の内側に
毛が生えてくるのです
地上の灯りは昇り
薄ら明るい空は
蠢きを落としてきます
落雷と豪雨の鼓動に
産毛は逆だち
震えあがります
だいじょうぶです、
だいじょうぶです、
と、
去年、切りすぎた紫陽花が
蕾をつけようと
雨粒をあつめても
新芽ばかりを
増やし続けています
切り方をまちがえた私が
悪いのに、です
昨日、花のように彩やかな色の
シーツを何枚も選んだのは
嵐のための前夜祭でした
小さな一級河川は
氾濫水位を超え
役割を放棄します
サイレンがなっています
逆立つ産毛は
濡れてゆきます
距離感をなくした耳は
ふさがれてゆきます
遠く、遠く、
だいじょうぶです、
と、
湿った産毛は
瞼の裏側で
倒れてゆきました
六月の朝は性急に
鈍い曇天を報せにきます
水分を含んだ庭は
いい香りがします、から
芽吹いたばかりの新芽は
眼の奥に鮮やかです、から
すべて、きっと、
だいじょうぶなのです
私は、ただ、
ただ広くいたい、
だけなのです
朝の人は言いました
週末には梅雨入りし
しとしと雨の日が
しばらく続くでしょう
内側の産毛が
抜け落ちた瞬間でした

ビッグライフケアプランセンター 加藤妹

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