医事課千野です。
「マンガ大賞2024」受賞作品。
勉強もバイトもうまく続けることができない小林が、転校生の宇野と出会うことで少しずつ変わっていく様子が描かれます。
①小林の視線を通して物語が進行していく
基本的に登場人物で内面描写が深く掘り下げられるのは小林だけです。
小林は、多くの人が「普通に」できることを、うまくこなすことができません。その小林から見てさえ、宇野は異質で変わった人間に見えます。宇野にとっては、小林も含めた多くの人たちが「普通に」暮らしている日常それ自体が宇宙空間のように上も下も分からない孤独で危険な空間だからです。小林は宇野の孤独に共感しつつ、困難を乗り越えようとする前向きさに感化されていくわけですが、宇野から見た世界が本当はどのようなものか、は想像するしかありません。
本作は、小林という、一見共感や同情を集めやすいキャラクターをフィルターにして、小林というフィルターを通して宇野という人物を描いている作品といえます。
②医学用語が出てこない
同様のテーマを扱った『リエゾン』では、監修に児童精神科の医師がつき、医療従事者の視点からさまざまな「患者」が描かれます。

主人公が当事者であるとはいえ、社会問題や制度的な矛盾と葛藤するのは基本的に医療従事者です。医師による診断も明快で断定的です。
『君と宇宙を歩くたびに』では、医学的な専門用語は出てきません。見る人が見れば、何が描かれているかは一目瞭然なのですが、作中では明示されることはありません。「社会問題」や「病人」、「障がい者」の苦労を描こうとする作品ではないからです。本作では、登場人物を「属性」でくくることを意図的に避けていると思われます。
③結論
本作は宇野を肯定的に描くために、語り手を小林に寄り添わせ、宇野の前向きさへの憧れを口にさせています。また、医学用語を排し、登場人物を「属性」によって理解(した気に)させることを拒否しています。どうすれば宇野を一人の魅力的な人間として描き出すことができるのか。一人の「普通の」人間として日常の中で生かすことができるのか。それが本作のテーマだからです。
絵柄も物語も地味ですし、私は宇野のようには生きられませんが、初読時はちょっと泣きました。

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