「82年生まれ、キム・ジヨン」

2016年に韓国で出版され、販売部数130万部を超えるベストセラーとなった小説。

2020年に映画化され、現在AMAZON PRIME 会員であれば無料視聴することができます。

あらすじ:結婚と出産を機に仕事を辞めた1982年生まれのキム・ジヨン氏。家事と育児に追われる日常を送っていたある日、ジヨン氏は突然、夫に向かって彼女の母親の声・仕草で語りかけ始める。その姿はまるで彼女に母親が乗り移ったかのようだった。その後もジヨン氏には時折、母親や死んだ大学時代の先輩が憑依するようになり、周囲の人々は変化に戸惑いながらも少しずつ行動を変えていく。

本書は、主人公のキム・ジヨン氏が、人生の節目節目で苦しみ傷ついたことを、医師が聞き取りカルテに書き取った、という形式で書かれた小説です。カルテに他人事のように書かれたキム・ジヨン氏の半生は、社会に根を張る差別と暴力を淡々と告発していきます。

出産で好きだった仕事を諦めざるをえなかったこと。

一人で家事と育児をせざるをえなかったこと。

主婦であることを「夫に寄生している」「虫」と揶揄されたこと。

男性経験を持ったことによって、ほのかに好意を抱いていた人物から「中古品」扱いされたこと。

職場で性犯罪の標的にされたこと。

職場の同僚が性犯罪に乗じて二次加害を行ったこと。

夫の家族に儒教的な「良妻賢母」を押し付けられていること。

本気で愛してくれるけれども、問題を全く理解できない夫のこと。

本書のような、現代社会で女性がどれだけ生きづらい思いをしているかを描いた作品がベストセラーになったことは、キム・ジヨン氏の生きづらさが決して過去のものではないことを物語っています。

ちなみに、2024年のジェンダーギャップ指数は、韓国が146か国中105位、日本は125位でした。以下のサイトによれば、日本では政治家はほとんど男性、企業も役所も学校も管理職の8割以上は男性だそうです。

都道府県版ジェンダー・ギャップ指数
都道府県ごとの男女平等度合いが「指数」と「順位」で分かる特設サイトです。

医事課千野

韓国の現代史にご興味のある方には以下の作品をお勧めしておきます。

『族閥』 Youtubeで無料で視聴可能。韓国社会の財閥支配の歴史を紐解いたドキュメンタリー作品。一見の価値あり。

『殺人の追憶』 上映当時未解決だった華城連続殺人事件を扱ったサスペンス映画の傑作。軍事政権期の農村の生活や風俗、警察の(杜撰な)捜査が描かれている点も面白い。

『タクシー運転手』 韓国が民主化するきっかけになった光州事件を扱った映画。名作。

『はちどり』 中学二年生の少女の生きづらさを描いた映画。数々の賞を受賞した作品。

『国家が破産する日』 現在の経済格差や不景気にも大きく影を落としている1997年の通貨危機を題材にした映画。

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